速い動きは苦手


 金管楽器の演奏能力が声楽と同等であることを考えればよくお分かりになると思いますが、基本的に金管楽器はあまり機動性は良くありません。基本的に音が跳躍する場合などは、16分音符ですらほとんど演奏できないと思って間違いありません。特にトロンボーンはアクションの大きいスライド機構のため、さらに演奏上の制限が厳しくなります。一般にピストン機構のトランペットやユーフォニウムはレスポンスが良く、得意な音形であれば16分音符程度は問題ありません。ロータリー機構を持つホルンはその機構上レスポンスが悪く、ピストン楽器ほどの機動性はありませんが、16分音符も演奏できます。ただし上手な奏者でないとその発音は不明瞭になりがちです。ピストン式のチューバはやはり管が長くて太いので、他のピストン楽器より機動性は劣ります。おおよそロータリーのホルン程度と考えておくとちょうど良いでしょう。ロータリー式のチューバはさらに動きが遅くなり、トロンボーンよりは速く動ける程度になってしまいます。

 トランペットやユーフォニウムは、基本的には4度以上の跳躍がない場合は16分音符まで演奏できます。ただし1小節以上16分音符が続くようなフレーズは、唇への負担が大きく、ミスも増えるのであまりお勧めできません。音階のような音形は割合に得意で、吹きやすい調性で、かつスラー指示があった場合には非常に素早い動きが可能です。トランペットであれば32分音符も不可能ではありません。ちなみに上昇音形よりは下降音形のほうが若干演奏しやすいということも補足しておきましょう。

 同音の反復はダブル・タンギングというテクニックを用いることで非常に素早い反復を可能にしています。これは通常のタンギングがTuTuTu...と発音するのに対してTuKuTuKu...と発音することによって通常の2倍の速さを実現します。通常のタンギングは平均的な奏者で16分音符をメトロノーム100〜120くらいですのでダブルタンギングを用いれば最低でもテンポ200で16分音符が演奏可能になります。そうするとダブル・タンギングを用いて音階を演奏すればかなり速くできるような気がしますが、口と指を一致させるのが非常に難しいため、アマチュアでできる人間はあまり見かけません。

 他の楽器で良く用いられるトリル技法はトランペット、ユーフォニウムにおいてはそれほど問題なく使用できます。ピストン式チューバもできないことはありませんが、動きが重く、あまり音楽的でないです。ホルンは倍音(同じ指使いで出る音)が多く、指を動かしても音が変わらないことが多いので、一般にトリルは困難です。半音トリルは指を動かすことでできますが、全音トリルはリップトリルといわれる口の動きのみで行うトリルを用います。ただしこの技巧は非常に高度で、アマチュアでできる人はほとんど見かけません。ちなみにトロンボーンは言わずとも分かると思いますが、トリルは不可能です。ただしテナー・バス・トロンボーンであれば、迂回管を使ってホルンと同様のリップトリルを用いることができますが、リップトリルの難しさもホルンと同様です。

 ここまで技巧的パッセージに関する私なりの考察を書いてきましたが、技巧に関しては非常に個人差が大きく、特に経験の量がとても影響しています。以上に述べた考察は経験を十分に積んだ一般的な奏者を念頭においていますので、中学生や高校生を対象にした場合はこの限りではありません。中高生を対象にした編曲では、極力8分音符以内に収まるようにし、やむを得ず16分音符を入れる場合は1、2拍程度の短いフレーズに留めておくべきです。
 このように書いてしまうと制約が多すぎて何もできないような気がしてしまいますが、技巧的なものが何もない楽譜というのは寂しいものです。音楽のスパイスとして技巧的なパッセージも所々に採り入れてみてください。


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